interview :
川本真琴 × 中村宗一郎 (エンジニア) 対談

■『フェアリー・チューンズ♡』(2011年)について

―次にかなり短い間隔で、「バイバイカレーライス」って曲が届いて、住所不定無職を紹介して一緒に録音しましょうって話になりましたよね。あと、三輪二郎とのデュテット(西岡恭蔵のカバー「踊り子ルイーズ」)を中村さんのとこで録音したんです。

N:あれ、茶谷(雅之)くん来たやつもあったじゃないですか。

―茶谷さんは「息抜きしようよ」で。馬場一嘉さんとか基本メンバーで。

N:あのときね、上手くコミュニケーション出来なかったんですよ。考え方に差がありすぎてね、難しかったです。

―確かに「息抜きしようよ」のスタジオミュージシャンチームと、住所不定チームでは違いすぎました。

N:雑な方(笑)。

―雑なのに(住所不定無色の)ユリナがドラム叩けなくて悩んでたっていう。

N:(笑)そうそう、何とかした、みたいなね。

K:悩んでたんですね、あれね。

―泣きそうでした。叩けねえよ、みたいな感じで。

K:(笑)そうなんだ、知らなかった。

N:そういう差がありすぎちゃって。どっちのチームも悩んでたんですね、あれは。

―だから実はこれ相当おもしろいわけです。この時の澤部(渡)さんだってサックス吹いたの、まだ2回目くらいだったって。

N:だってピアノでサックスのフレーズ、こうやるんだよって教えてたじゃないですか。

K:言ってましたね、あの時!

N:みんなで、どうすんだこれー?ってじっと待ってるみたいな。

K:あの時わたしもまだちょっと真面目だったですよね考え方が。澤部さんにサックスの音程を教えるくらい。

N:いやあ、これはマズいって思ったんじゃないですか、やっぱり。

―澤部さんはミックスかマスタリングの時にひとりだけで来て録り直してるんですよね。

N:あ、そうですそうです。それでごまかしてギュギュっとやりましたね。練習してきてね。いろいろありましたねえ。

K:本当なら、じゃあこのリハを経てもう1回やりましょう、ってことだったんでしょうけどね(笑)。

N:録音の日にいきなりやったんですもんね。瞳孔開いてるみたいな感じでしたもん、澤部くん。

K:まあ澤部さん次に来ても一緒だったと思いますけどぉ(笑)…

N ワッハッハ(笑)。で、「息抜きしようよ」は息抜けないくらいがんばりました、そういや(笑)。

K:あっ、そうなんですか!

―馬場さんすごかったですよね。

N:めっちゃめちゃ上手い。そこに色々なエフェクトかけたりとか、最後の数秒にもぼくの方で入れました。

K:あ、やってたんですね。やっぱなんかそういう技術的なところはあると思うんですよ。でも、中村さんはいっぱいやってるじゃないですか、そういうバンドとか。なので、いろいろ言い合って、中村さんの良いところを吸収してもらったりとかしてやってもらったりするといいのかなー、とか思ったりしますね。

N:もう1回やればもうちょっとうまく出来るかもしれないですけど(笑)、あの時は必死でしたけどねこっちも。なんかほら、普通のちゃんとしたレコーディングスタジオでやれることを前提として皆さん来てるから、うちちょっとそういう感じじゃないんです、って説明しなきゃいけないんで。そこら辺がね難しくて。普通出来ることが出来ないっていうのはね、ちょっとなかなか厳しいでしょうし、やる方も。

K:(笑)。どうなんですかねえ?そういう面白さもありますけどね。

N:まあ、正解というか、わからないですけど…、始まったら終わらなきゃいけないじゃないですか、絶対。ライブもそうだしレコーディングもそうだし。うまく終わる位置を探るっていうかね、そこが難しいというか。ねえ、時間もお金も限りがあるわけだし。

K:はい、わたしけっこう究極、究極にいきやすい人で。和食の後うまい棒食べたい、みたいなそういうところがちょっとあるんですよね。

N:すごいですよね、その色々やれる、何だろう、幅広さというか。

K:けっこうみんな、上品なのが好きだったら上品なのしか聴かないですよね。

N:かも知れないですね。あんまり冒険しないですよね、別け隔てなく。

K:そうですよね。いや、そうならないですか?キチッとしたもの食べたあとって。キリンレモン飲みたくならないですか?で、次の日はごはんとししゃもだけ、とか。

N:これ(『フェアリー・チューンズ♡』)はなかなか雑多な感じで面白かったですね。

K:そうですよねえ(笑)。茶谷さんとは上手くいってたと思いましたけど?

N:あの人のスタイルはパンクっぽいってうか、ストレートなガーッ!って感じじゃないですか。でもね、好きな音楽とかを聞かせてもらうと、ちょっとジャズっぽかったりとか、モノラルの一発録りみたいなものとか、60年代初頭とか50年代とか、ああいうのが好きなような印象があるんですけど。なーんか面白いんですよね。上手いしね。

K:うんうん。澤部さんのドラムも好きですけどね。ボーカリストのドラムなのかな、って思う。

N:歌に寄り添う、みたいな?

K:いやー何かね、やっぱりドラマーじゃないドラム…、規格に沿ってないですよね(笑)。叩きたいとこ叩いてるんです。そういう意味では『願いがかわるまでに』は無茶苦茶な人は関わってないですよね。

―でもこの後、去年(2014年)は嶽本野ばら(『初音ミクの結婚』)と、ぱいぱいでか美(『レッツドリーム小学校』)に曲を書いてもらって。嶽本さん、また捕まりましたけど。

K:えっ!マジで!?いいじゃないですか。わたしのあれの曲(「ジュリア」)なんて脱法ハーブみたいな曲じゃないですか。

―まあ、あれ全部がそうだから。あのボーカル録りの時は、今でも笑っちゃうけど、バックトラックが流れる中で歌うじゃないですか。曲終わってるんだけど、まだ歌ってるっていう、すごい録音だったです。

N:ワッハッハ(笑)。何かが流れてるんでしょうね、何かが(笑)。