壊れかけのテープレコーダーズは2007年結成以来、リーダー小森清貴と遊佐春菜の男女ツインボーカルが不思議なムードを醸し出すしかしプロト・ロックとしか言いようのない堅固なロックバンドです。このバンドの紅一点、遊佐春菜が、住所不定無職の頭脳、ザ・ゾンビーズ子のプロデュース (Coプロデューサーとして金子麻友美と遊佐本人も)で初めてのソロ・アルバム「Spring Has Sprung」を発表。そこで、実は本作の影のプロデューサー、住所不定無職 (現Magic, Drums & Love) のユリナと遊佐春菜の2人に話を聞きました。(進行/まとめ:金野篤 DIW)
-壊れかけのテープレコーダーズの3枚目が出来たときに、「ハレルヤ」(2012年)ですね。そのときにユリナさんに渡したところ、すごくいいね、なんて話をしてたら、遊佐のソロ(アルバム)やったらどうなの?って言われたわけです。
ユリナ:覚えてないんですよ。
-同時に言ったような気もする。
ユリナ:でもそれは思ってた。遊佐さんソロ出したいんだけど小森(清貴、壊れかけのテープレコーダーズのリーダー)に反対されるだろう、って言ってたから、やっちゃえばいいじゃん、とは言いましたね。そのころからバンドで歌う量が増えたよね。
遊佐:うん、増えてきた。
-「ハレルヤ」で遊佐さんのボーカル、初めて意識しましたね。とても好きな音として。あと、フロントに女性ボーカルがいるのにそれを上手く見せてない、とは感じてました。
ユリナ:でもジャケットは遊佐さんだった。
遊佐:あれは、近藤(祥昭、GOK SOUNDエンジニア)さんが考えた。写真撮ってくれて構図も全部考えてくれて。
-ユリナさん、もうちょっと思い出してくれるとありがたいんだけど。
ユリナ:私たちの周りでは言われてた。存在感も増して、(ソロ・アルバム)あったらいいかも、って。あと一番覚えているのは、金野さんから電話が来て、こっちはちょうど住所の2ndアルバムのレコーディング中で何だろうと思ったら、遊佐が最近色っぽい、って。そんなことで電話してくんなよって、じゃあソロ出せばって電話切った。
遊佐:ハハハハハ。
-覚えてないけど、そういうのは重要かもですね。
ユリナ:遊佐さんの成熟期だったんじゃないかな。
-ここから着手するまでが長かったんですよね。
ユリナ:何があったんだろう。
-まず小森さんに言ってみたんだよね、バンドメンバーのソロ、バンド活動の一環として、ですね、何のアイデアもなかったけど。そしたら曲が書けないからってダメだって言われましたね。
ユリナ:それは、遊佐が見つかってしまう、みたいな気持ちだったんじゃないのかな。
-それからしばらくして住所不定無職のアルバム(「GOLD FUTURE BASIC,」)が出て、それはもう驚いたわけです、ゾンビーズ子の存在に。
ユリナ:アレンジだけでも凄かった。
-スタジオの鬼みたいな。
ユリナ:1ヶ月スタジオ入った。
遊佐:ええっー!
ユリナ:あんまり売れなかった。
-ポップスの奥の奥、気が狂うところあたりまで行こうとしてた。
ユリナ:この頃もうライヴ止めようか、なんて話してた。
-ゾンビーズ子には何かやってもらいたかったわけです。川本真琴さんの(2011年「フェアリーチューンズ」)1年遅れのレコ発で住所と一緒にやって、
ユリナ:その日わたしが盲腸になって出なかったやつ。
-そうそう、剃毛したやつ。その出演者打ち上げをその翌年(2013年)に(横浜)野毛でやったときに、
ユリナ:川本さん来なかった、三輪(二郎)さん来たけど。
-ちょうど今度ぱいぱいでか美のアルバム作るから曲書いてって、ゾン子に頼んだら、
ユリナ:横からわたしが断った。
-そのときに遊佐さんのアルバムはお願いしたいという話になった。
ユリナ:ゾン子のプロデュース処女作になってよかった。
-そこからまた時間かかった。
ユリナ:デモ作りになったんじゃなかったでしたっけ?
遊佐:そのへんの話は何も知らされてないです。
-去年の12月にゾン子と2人で打合せしたときに、そんなに曲書けないと言われました。
ユリナ:量産出来るタイプじゃないから。
-こういうポップな内容で作りたいというイメージを伝えたら、なら3、4曲は出来るとなったんです。でもこれでは足りないからもう1人ソングライター立てようと、そこで金子(麻友美)さんが出てきた。
遊佐:マーライオンのアルバム(「吐いたぶんだけ強くなる」「ボーイミーツガール」)に参加してたから?
-そう、そこで初めて知った人ですが、マーライオンではキーボードだけ参加したんだけど、いちいち天才的なフレーズが出てくるので今後何かお願いしたいとは考えてたんです。金子さんはこちらの要望に対してわりと忠実な曲を書いてきてくれる。ゾン子はそうはならないところが面白かった。
ユリナ:解釈の違いだけで。
-うん。で正月明けの4日にゾン子からまず2曲のデモが届いたんだけど、これがすごかった。
遊佐:「五月の雨」と「いつでも地面が星空」。
ユリナ:ゾン子の2曲、大絶賛してましたよね。
-これでイケる、って確信した。それで金子さんからもすぐにデモが来たんです。
ユリナ:デモ合戦みたいな。そのころやたらメール来るな、って思ってたけど見なかった。
遊佐:わたしは知らなかった。
-えっ?CCメールに入ってなかったっけ?
遊佐:入ってないです。
-12月の打合せの時点で、ゾン子から録音メンバーは決まってると言ってました。ほら、このメモ、メンバーの名前と録音に20時間は必要、って書いてある。
ユリナ:それじゃ足りないとは言ってたけど。
-このメンバー(佐古勇気、田代タツヤ、鮎子、柳沢明史)、ユリナさんにはお馴染みの。
ユリナ:住所にとってはいつものメンバー、佐古さんは住所とはないけど古い付き合いです。
遊佐:佐古さんは壊れかけにとっても瀬尾(マリナ)さんの咽笛チェインソにいたから一番古い付き合いです。
-去年の12月終わりに壊れかけのライヴがGOKであったとき、佐古さん観に来てくれて、遊佐ソロよろしくって言ったら、何も聞いてないけどやりたいって言ってました。
ユリナ:そう、その話聞いてゾン子に、何も言ってないの?って聞いたら、そんなことまでしなきゃいけないの?音楽作るしか出来ない、って。だからわたしがメンバーのLINEグループ作って練習や録音のスケジュールの調整しました、住所でもそうだから。
遊佐:そのあたり何も知らなかった。まだそのころ(ソロアルバム)やる、とは言ってなかった。
ユリナ:えっ?じゃあ2月ころ練習とレコーディング日程が送られたころ初めて知ったの?
遊佐:うーん?
-歌詞のことも考えてなかった?
遊佐:そうです。でも藤井(邦博)さんがオルグでライヴやったとき(2014年10月)に、何となく曲書いてくれるような話はしてましたよね。
ユリナ:納得はしてたんだけど現実感がなかったんでしょ。
-その話は忘れてた。作詞は全て遊佐さんにお願いするつもりでした。
ユリナ:壊れかけでも書いてないよね?でもこれはいろんなタイプの人が曲作りに関わってホント面白くて、ゾン子も藤井さんの歌詞がスゴイって言ってた。
-遊佐さんは最初はよくわからなかったのかもしれないけど、曲が出来始めて、どんな感じでした?こっちがどんどん追い込んでいったのかもしれないけど。
遊佐:そのときそのときの優先事項をこなしていったら出来てしまった感じです。
-でも誰より一番すべてを見ていたと思う。
ユリナ:楽器やらないって言ってたけど結局何曲か鍵盤弾いてたよね。
遊佐:3曲だけど。
-ゾン子はそもそも鍵盤を遊佐さんにやらせようとしなかったんだよね。
ユリナ:鮎子さんは住所のレコーディング何回も入ってるし、鍵盤のアレンジを頼っているところがある。
-もっといいアレンジになる可能性高い。
ユリナ:フレーズはゾン子が考えたりするけど音色は鮎子さんだったり、そういう信頼感。
-で、話戻って。
遊佐:はい。とにかく次々と届く曲がどれも良くて、そのあと藤井さんの歌詞が良くて。
-それは早い時期にマーライオンからも2曲届いて、そのうち曲として成り立ってなかった1曲が良くて、そのデータを藤井さんにメールしたら30分くらいで返信来て歌詞が付いて自分で歌ってる完成された曲が届いたんですね。
遊佐:思ってないところでどんどん進んでそれが良かった。
ユリナ:壊れかけの遊佐さん、ではなくて、それが良かったと思う。最初から小森さんには頼まないって言ってたし。
遊佐:一緒になっちゃうから。
-当初は制作スタッフ側が全てのお膳立てをして、じゃあ歌いに来てって、するつもりもあったんだけど、藤井さんをきっかけに遊佐さんのものになっていったと思う。そのころから遊佐さんからいい提案が増えてきた。
ユリナ:ニイ(マリコ)さんに詞を書いてもらったのは?
遊佐:それはわたしが。
-おれにそのアイデアはなかった。三輪二郎も遊佐さんが言ってきた。
遊佐:えっ?違うと思う。
ユリナ:あれは名曲。いきなり♪あなたの米俵かつがせて、って。
-それを1曲目に置いた遊佐さんもすごい。
遊佐:あと、ジャック達の一色進さんと藤田(建洋)さん、ユーカリサウンドトラックってバンド、好きだったから。この2人に歌詞をもお願いしようとしてました。でもわたしが連絡しないうちに藤井さんから歌詞がどんどん届いてきて。
-このままだと全ての歌詞が藤井さんになってしまう、というくらい勢いすごかった。それで自分も書きたいってなったんですよね。
遊佐:いや、違います。金野さんから何曲か書いてほしいとメールが来て、無理かもしれないですって返したら、ちょっとお怒りの返信が来て、やらなきゃ、って歌詞を書き始めました。
-「川べりのうた」は録音入って出来た曲だよね。
遊佐:そう、スタジオすぐの荒川の河川敷がよくて。
ユリナ:ああ、金八先生の河原。いいスタジオでしたよね。ドラムの音がいいって、あと馬場(友美、エンジニア)さんの腕がいい、ってゾン子がずっと言ってた。住所のレコーディングもドラムだけそこで録りたいって。
-話を戻して、2月の練習のときはどうでしたか?
遊佐:1回目のアレンジ決めのときは来なくていい、って参加しなかったけど、2回目行ったら、いろいろ難しいこと話しててやっぱりみんなミュージシャンなんだなって思いました。
-当初4回練習する予定でその予算も取っておいたんだけど2回で終わったんだよね。
遊佐:このままレコーディング出来るんだろうかって不安になりました。
-スタジオ録音と金子さんの曲は宅録でトラック作っておくのと半々の予定だったけど結局全部スタジオで録音したよね、宅録は1曲だけ。金子さんも練習に参加してバンドでやろうってなっていった。
ユリナ:歌入れは?
-別日設けて。歌の練習はずいぶんやってましたよね。
遊佐:しましたねぇ、1人で。
ユリナ:カラオケで?
遊佐:スタジオで。ゾン子さんの曲が難しくて。
ユリナ:あれは変だよ。わたしもレコーディングのとき難儀する。メロディが変動するし、歌い辛い。
-「五月の雨」はごく普通のポップソングに見えるけどかなりすごい。
遊佐:似てる曲がないですよね。
ユリナ:歌入れは2日くらい?
遊佐:1日で全部録りました。
-録りながら新しいアイデア出てきたよね。ユリナさんにデュエットしてもらうとか。
遊佐:それはもう全部終わったときに、この曲(「Trees & Flowers」)やっぱり足りない、っていうか違う声を入れたいって。実はそれは当初から考えてたんだけど、なかなか言えなくて、ミックス直前に電話してお願いしました。
ユリナ:もう何事かと思って。
遊佐:3日以内にお願いって。
-録音は小森さん?
遊佐:わたし。あれヤバイ。
ユリナ:スタジオにハンディレコーダー持ってきて、小森さんが言ってたからってマイクにストッキング被せたりして。三茶のスタジオだったんだけど全部録れてないって。
遊佐:全部失敗しました。うまくいったと思ったら録音ボタン押してなくて、すいませんて。まずレコーダー自体の電源も入らなくて。
ユリナ:今のいいね、って終わったあと思ったら、押してませんでした、と。
遊佐:お約束の。
ユリナ:とにかくギリ、春に出せてよかった。
-6月は夏。
2015年6月30日渋谷
遊佐春菜/Spring has Sprung
(MY BEST! RECORDS MYRD-86 2015年6月24日発売)
1.恋のトロイカ
2.いつでも地面が星空
3.会いたくなったら
4.川べりのうた
5.ずっと雨降り
6.spring has sprung
7.Trees and Flowers
8.そうじふりんぼ
9.夜の足音
10.鏡が割れて
11.五月の雨
【演奏】遊佐春菜、ユリナ、田代タツヤ、鮎子、柳沢明史、佐古勇気、金子麻友美、藤井邦博、小森清貴【作詞/作曲】遊佐春菜、ザ・ゾンビーズ子、金子麻友美、藤井邦博、マーライオン、三輪二郎、ニイマリコ【録音/ミックス】馬場友美【マスタリング】中村宗一郎
[住所不定無職最新情報]
魔法とドラムと愛の名の下に生まれ変わった住所不定無職の新プロジェクト Magic, Drums & Love を今年から始動。8月上旬、DECKREC / JET SET より7inchシングル「フシギ “TONIGHT”」でのデビューが決まっている。
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