ロンドンを拠点に DYGL の第二章が幕を開ける!前作から約2年ぶりとなるニューアルバム『Songs of Innocence & Experience』を 7/3 にリリースした DYGL。今作は特に60年代のマージービートのバンドをかなり参照したとのことで、その影響も感じさせながらアルバムを通して豊かな作品に仕上がっている。勿論 DYGL の一貫したシンプルでストレートなスタンスは健在。この夏にはフジロック出演を含む Japan Tour も開催するバンドに、今作の制作拠点になったロンドン、元Test Icicles の Rory Attwell をプロデューサーに迎えたアルバム制作、アルバムのタイトルとして引用されたイギリスの詩人 William Blake などについて語ってもらった。こちらのメールインタビューに対して真摯にインタビューに答えてくれた、フロントマン秋山さんの誠意に感謝を込めて。
ーー今作『Songs of Innocence & Experience』はロンドンで制作が行われたとのことで、過去現在のUKレジェンドバンドの影響が感じられました。ガレージロック・リヴァイヴァル世代としてはワクワクしながら聴かせて頂きました。まずNYからロンドンに移り住んだ理由を教えて下さい。
嘉本 : ライブやレコーディングで様々な国に滞在し、その場所の雰囲気やムードを感じた上で、ロンドンが最も今の僕らに合っていると思ったのが1つの理由だと思います。実際に住んでみると、街の規模や人柄も親しみ易く、音楽や芸術が身近に感じられたのでとても良い影響が受けられていると思っています。
ーーアルバムは難産で、ロンドンに移ってから制作が進み出したとのことですが、移ってからの変化や肌で感じるロンドンの音楽シーンはどうでしたか?どんなライブやクラブにいきましたか?
加地 : 音楽シーンは世代や音楽性ごとに複雑に入り組んだような印象を受け、正直そこまで掴みきれていないというのが実感ですが、町自体からは様々な影響を受けたんじゃないかなと思います。例えばカフェでかっこいい音楽が流れてるような機会に多く遭遇したり。自分が見た中で印象的だったのはGiant Stepsで見たVanishing Twin。
この会場は旅行するサウンドシステムという変わった肩書で、僕が行ったときはロンドンのハックニーに場所を借りていたのですが、過去にはフェスにシステムを提供したりしていたそうです。フロアライブで、この日はゲストのダンサーが会場の中心にいて、それをバンドが囲み、さらに客が囲み、そのさらに外に五〜六台の大型スピーカーが囲んでいるという図でした。様々な人種やカルチャーが共存している場所ならではのイベントだったと思います。
秋山 : ここ数年はかなり音楽シーンがデッドな感じがあり、外からだと実際何が起きているのかわかりづらい状況が続いていたと思うのですが、いざこちらに来てみるとメディアで語られる海外だけが海外じゃないんだなと強く感じました。まず、「海外」という言葉も日本と相対的に比べての言葉でだいぶ曖昧なものだなと思います。
NYもLAもそれぞれ全く違う表情でしたが、ロンドンは今までで一番街の雰囲気や人の雰囲気が日本に近いなと思いました。会話の距離感や街の作りはとても快適で居心地がいいし、かといって東京ほど忙しないわけでもなく、フリーのライブや美術の展示があちこちで開催されていて本当に刺激的ですね。
日本と違って音楽はライブハウス、芸術はギャラリー、という住み分けが、もちろんないわけではないのですが、クロスオーバー的なイベントやアートも音楽もどっちもやるというタイプの人たちの往来によってその垣根は限り無く低く、それによって芸術にも音楽的な視点が持ち込まれ、音楽にもアートの香りが持ち込まれ、これこそが日本になくてロンドンにはある魅力の一つなのではないかなと感じています。
表現をする、ということをジャンルや頭で考えた分類でまとめず、直感的に興味があることはどんどん試し、実験し、そしてまた何か新しいものが生まれて行くというサイクルは、人種のるつぼであるロンドンならではのエネルギーなのかなと思います。同じ島国とはいえ、だいぶ違った印象を受けました。
ーーデビューアルバムでは The Strokes の Albert Hammond Jr. をプロデュースに迎え、今作では Palma Violets や Yuck、Childhood などを手がる、元Test Icicles の Rory Attwell をプロデューサーに迎えています。彼との出会いやレコーディングはどうでしたか?
下中 : 彼とのそもそもの出会いはこちらから彼の手がけてきた作品をチェックしたところからです。最初はこちらから連絡を取って、Bad Kicksの7インチシングルを録音するところから始まり、そこでいい手応えがありましたからそのままアルバムも一緒に作れることになりました。作曲の面よりもプロダクション面について助けてもらうところが多かったように思います。僕らが空いている時間にセッションをしているとローリーもそこにある楽器で参加してくれたりして、そういうカジュアルなところもすごく僕らに合いました。
秋山 : アルバートもローリーもそうですが、僕らはだいぶ細部までのこだわりが強いのでテンポを0.5単位で調整したり、各テイクの気になるポイントの修正など、だいぶ仕事量を増やしてしまうようなオーダーをたくさんしましたが、創作面において本当に必要だと思われることであれば、必ず対等に意見をかわし、元々彼らが違うと思っていた意見でも試させてくれたのは本当にありがたかったです。
期限ギリギリでだいぶ無茶を言うシーンも多かったですが、妥協せずアルバムを作りきらせてくれたのは僕らのマネージメントチームと、ローリーのおかげだったと思います。マスタリング当日の朝五時に最終の修正をしてもらうなど、かなり無茶言いました笑 忍耐力をもって一緒に仕事をしてくれたことに感謝しています。人柄としてはなかなかお茶目で楽しい人でした。最近までWarm Brainsというバンドをやっていましたが、今はあまりやっていないみたいですね。
ーー海外の音楽メディアではシングル「Bad Kicks」は The Clash や Sex Pistols を引合いに出されるなど、「A Paper Dream」のメロディー/歌詞は Razorlight、The Libertines、The Cribs を彷彿とさせると評価されています。過去や現在に至るロンドン (UK) のバンドからどんな影響を受けてきましたか?
加地 : 六十年代頃から現在まで僕らの会話の中では沢山のロンドン、またはイギリスのバンドが出てきます。数が多いので一概には言えませんが、フェスで見たFat White Familyで多くの客が熱唱してたように、みんなで歌いたくなるようなメロディーの良さとか、熱量といったものには少なくとも影響を受けているんじゃないかと思います。
秋山 : まさに数えきれないですね。音だけじゃなく、街の色味や言語的な世界観もそうだし、ロンドンないしイギリス各地のカルチャーからは相当な影響を受けていると思います。まさにその辺りのバンドは個人的に最初に音楽にのめりこませてくれたきっかけのバンドでもありましたが、その周辺にいるさらに多くのバンドたちを生んだ街そのものにも興味がありました。当時のバンドは今でもしょっちゅう聴きますね。Hard-Fi, Little Man Tate, The Enemy, The Lurious, Good Shoes, The Young Knives, Blondelle…Pete and the Piratesのメンバーは今Telemanで復活していて、最近はそれが嬉しいです。
ただ、この時代のポストパンクリバイバルがきっかけだったとはいえ、70年代のパンクやその後のニューウェーブ・ポストパンク、マッドチェスターやブリットポップからも大きく影響を受けましたし、ほとんど全ての年代の音楽に影響を受けていると思います。特に今回のアルバムでは60年代のマージービートなバンドたちをかなり参照しました。もちろんイギリスに限らず、アメリカやカナダ、オーストラリアの音楽も、あまり地域に関係なく好きな音楽は拾って来たつもりです。
最近ではDope Saint Judeという南アフリカのヒップホップをロンドンのクラブでみたのですが、とても好きな感じでした。ロンドンではイギリス以外の国でまだあまり規模感が大きくないミュージシャンでもライブをしに来ることがあるので、完全に作られたショーじゃない、リアルなライブをみる機会が多いのも嬉しいですね。イギリス国内だと、最近若手のバンドがポストパンクに影響を受けつつ新しい流れを生んでいて、気になっているバンドが幾つかいます。Roxy Girls, Bodega, Personal Trainerなどライブを見てみたいですね。Italia 90は帰国前最後のライブで僕らのサポートをしてくれることになり、彼らのライブを観れるのも楽しみです。去年か一昨年のSXSWでみたShoppingも素晴らしかったです。
ーー収録曲「Only You (An Empty Room)」では “you’re my Waterloo” という歌詞が出てきますが、これは The Libertines の “You’re My Waterloo” からの引用でしょうか?
秋山 : 聞き馴染みがあったのと歌にハマったので登場したフレーズですが、言われてみればそうかもしれませんね笑 歌詞を書いている時意識はしていませんでしたが、頭のどこかに引っかかっていたのかもしれません。元々は60sの音楽を参照している中でThe KinksのWaterloo Sunsetを聴いていたり、テキサスのSXSWに行ったら必ず立ち寄るレコード屋がWaterloo Recordsだったりと、何かと縁を感じる単語だったのでWaterlooという単語を使いたいなとなんとなく思っていました。この曲の歌詞を考えているときに自然とこのフレーズで生まれて来たのでそのまま残しましたが、フレーズとしてはThe Libertinesの影響は大いにありそうですね。
ーー今作ではサイケデリック、プログレッシブロック、ポストパンクなどバンドがフェイバリットに上げるアーカイブが作品に反映され、アルバムを通して豊かな作品に仕上がっています。ブレることなく DYGL の一貫したシンプルでストレートなスタンスも伺えますが、メンバー間で共有しているビジョンや役割みたいなものはあるのでしょうか?
嘉本 : ロンドンでは4人とも同じフラットに住んでいたので、普段聴いている音楽や観た映画、アート作品等を共有する機会が多かったと思います。そういった話をしているうちに、バンドとしてのビジョンが自然とまとまっていったのかもしれません。特に役割を決めているということはないのですが、徐々にメンバーそれぞれのアイディアを活かした制作をする機会は以前に比べて増えてきています。
ーーアレンジでは、シンセサイザー、サックス、ツィター、打ち込みなどこれまでの DYGL に見受けられなかったポストプロダクションも工夫されています。こういったアイディアはプロデューサーの Rory Attwell によるものでしょうか?
下中 : 前回のアルバムをシンプルなサウンドで作りましたので、今回はオーガニックというアルバムのコンセプトから外れない範囲で色々試して行こうということはメンバーで話していました。ローリーも遊び心のある方ですので、いろんな楽器を試すことにも積極的でしたし、その相乗効果がポストプロダクションに繋がったと思います。どの楽器がだれの発案だったかなどは詳しくは覚えていませんが、それぐらいその場にあるものから得られる発想を実験できる意欲的なレコーディングになりましたし、それにはローリーの新しい可能性に対してオープンなパーソナリティが不可欠でした。
秋山 : シンセや鍵盤なんかは以前から入れるべきかどうかという議論はバンド内で何度もありましたし、結局は今の時代にシンセが入っていない音楽なんてないんだから、逆に安易に入れるのはつまらないと言うことで頑なに拒んで来ました。個人的にはシンセや鍵盤の入った音楽もサンプリングでできたデジタルなサウンドも好きなので、バンドとして表現する世界観次第では全く問題ないと思うのですが、DYGLとしてはギターロックの限界に挑戦したいというテーマがあったのでそこは慎重でした。
とはいえ前回のアルバムでもウーリッツァーを若干入れたりなどあったので、少しずつ許せる範囲が拡張して結果的に今回はだいぶそこらへんの規制を解いた形になりましたね。個人的には、いまだにギターだけに拘る姿勢にも可能性が大いにあると感じてはいるのですが。とはいえ、曲として必要かどうかという点でギターのみでは物足りない曲が何曲かありましたし、その可能性をオープンにすることで前回ではできなかった経験をしたいと言う意識は強くあったので、結果的にここまで楽器の幅が広がりました。下中の言う通り、Roryとの話し合いの中で実現したものも幾つかあったように思います。
ーーアルバムのヒントとなった William Blake の作品の魅力は、その作品自体の「矛盾」にあるとのことですが詳しく教えて頂けますか?
秋山 : 今回の作品にタイトルとして引用したBlakeの詩集ですが、実は今回のレコーディングとミックスが終わるまで特にその存在を意識はしていませんでした。前作のタイトルは’Take it Away’という楽曲の一節からの引用だったのですが、今作でもまたアルバム曲の歌詞からの引用をするのはちょっと野暮だなと思い、今回は独立したタイトルをつけようと考えていました。とはいえアルバム制作前にはある程度テーマを絞って作ろうと話していた今作も、結局だいぶ自由奔放で好き勝手な性格の四人が制作に同時に打ち込む中で、あるいは主に作曲を担当している僕の個人的な趣味の多さで笑、
曲が結局だいぶバラエティ豊かに花開き始めたので、これは無理やり一つの世界観にまとめようとし過ぎるのは曲の良さを削ってしまって勿体無いので、とりあえずは曲のあるがままにしようと考え直しレコーディングを進めました。なのでその段階ではアルバムの全体像がどうなるのか見えそうで見えないと言った感じで、アルバムの制作が落ち着いて改めて全体を聞き直すまではタイトルを考えるのはやめようと思ってその作業を取っておいたんですよね。そしていざミックスまで終わった段階で腰を据えてタイトルを考え始めたのですが、その前後でなんとなくこのBlakeの詩集のことを思い出していました。
大学時代にイギリス詩を専攻していたので何篇かは読んでいたのですが、改めてきちんと全体を読み直すと、不思議と自分たちの今回のアルバムとの関連性が次々と見つかって、引き込まれていきました。特に今回僕は歌詞を書く中で、自分の中で感じていた社会の理不尽や、自分自身のパーソナリティにおける感じ方の矛盾など、筋の通っていないことそのままを歌詞に残した方がリアルなのではないかと感じ、無理に答えを見出したり、無理に明るい歌詞にしたりしないようにしたと思います。前作は決して無理に明るくした訳ではなく、その時の自分のムードや感じ方をあの時のリアルな形で書けたとは思っていますが、今回はより内面的で、パーソナルな歌詞になったのではないかと思います。
これでもまだ自分の内面の全てを開示できているかはわかりませんが、それも長い試作の旅の中で見えて来るものもあるのかもしれません。とはいえ今作の中にもHard To Love やA Paper Dream、As She Knowsなどの理不尽や矛盾を歌いながらも、ある種の楽観性と言うか、明るいムードを感じさせる曲もあり、この一曲一曲の中でも喜びと痛み、自分と相手、理解とすれ違いなど、色々な対立する世界観を描けたかなと思いますし、怒りや悲しみ、獰猛だったり静謐だったりする感情を表現している他の曲と比べても、そこには対立があります。これを僕は矛盾だと感じていて、そしてそれをあえて残すことが、自分の心の中で溜まっているものを多少は表現できたという安心に繋がりました。
なのでBlakeの詩集のタイトル “Songs of Innocence & of Experience” を思い出した時、こんなに完璧なタイトルはないと思ったんです。無垢と経験。そこには対立する別のムードがあるし、そこには同じ世界、あるいは同じ人間の中における矛盾がある。こういう矛盾は頭で理解しようとすればするほどできないので辛いんです。だからこそ、答えを無理に出そうとしないで、それそのままの形で表現できたらいいなと思って矛盾を歌詞の中に残すことをテーマの一つとして意識していました。
彼の作品を僕の判断で矛盾と呼ぶのは傲慢かもしれないのであくまでも僕個人の考え方ではあるのですが、無垢と経験をぶつけて一つの作品にするということは、社会の理不尽さや、矛盾をそのままの形で保存することなのかなと僕は感じました。頭でこうだと感じたと言うよりは、自分自身がそう肌で感じている感覚に、実際にBlakeの詩を読んだ時の感覚が似ていたと言うことだと思うのですが。ともかくそのタイトルに惹かれて、一度読み直してみたんです。そうしたら、彼が「無垢の歌」「経験の歌」それぞれで歌っている情景に、多くの共通する温度感を発見しました。
自分の中で相反する無垢と経験の衝突そのものはもちろんですが、僕らのアルバムに入っている曲 ‘An Ordinary Love’ の出だしと同じフレーズ “Sweet dreams” から始まっている詩もあったり、テムズ川に言及する詩と、今回詩作やミックスチェックでテムズ川沿いの美術館併設のカフェで延々と作業していた自分との距離感の近さも感じたりと、何かと関連性を感じたんです。僕は自分で浪漫を大切にいきているつもりなので、こういう縁には弱いですね笑
普段いろいろな決断の度に、あらゆる選択肢を検討して、石橋を100回くらい叩いてから渡る慎重な性格なのですが、この詩のタイトルと出会った瞬間には、もう他のタイトルを検討する必要はないと感じました。オリジナルのタイトルに自分なりのリスペクトを示しつつ、自分たちの作品はもう少し「無垢」と「経験」が一緒くたになっているということも踏まえ、一つだけofを抜き取り、僕らの新作のアルバムのタイトルとして引用させてもらいました。
ーー秋山さんは身近な問題や政治問題についても、無関心ではなく自身の instagram で声を上げるなど意見を表明していますが、そういった問題意識が歌詞に反映されたり、何かを考えるきっかになったりするのでしょうか?実際に収録曲の「Spit It Out」や「Don’t You Wanna Dance in This Heaven?」では日本の風潮や政府の時代遅れな政策についての皮肉を歌っていますが。
秋山 : そうですね、Bad Kicksにも若干その節があるのですが、特にその二曲は自分の中ではさらに直接的に日本の社会、もっといえば今の世界情勢に対して感じている違和感や憤りを反映していると思います。政治や社会というものは、僕らの生活の一部ですから、切り離して考えることはできません。なので、僕が政治問題や社会問題について考えて発言しているのは、好きな音楽の話や、映画の話、漫才の話、恋愛やセックスの話、テクノロジーの話や地元の飲み会の話と、全て同列で話しているつもりだし、僕が理想だと思っている社会は、そう合って欲しいなと思っています。
ですが、今の日本は政治や社会を切り離したり、死やセックスを普段の生活から切り離したり、まともじゃない人間や貧しい人間を切り捨てたり、都合の悪いものを見ないふりしようとしているように見えるのですが、そのせいで余計に問題が複雑になったり、必要のない問題が生まれたり、悲しい格差や争いごとが生まれているように思えるんです。音楽やアートには、思ったこと、感じたことを自由に表現できるパワーがある。僕はそう信じているし、多くの人がそう信じていると思います。Spit It Outでは、目まぐるしく回る社会の中で、自分が言いたいことを言えるのは自分だけなのだから、吐き出したいものは全て吐き出してしまえ、と歌っています。
やりたいことはやるべきだし、言いたいことは言うべき。シンプルに。でも難しい。だから音楽や芸術が必要なんだと思います。でも俺は少なくともそれは楽しい方がいい。思ったことを、最高の気分で言える。それが俺にとってのロックだし、パンクだし、詩なんです。Don’t You Wanna Dance in This Heaven?も同じく社会情勢を強く反映していますね。「壁」はドナルドトランプが国境に立てようとしている壁のことだし、「exits」 はBrexitのことだし、「melting down」 はもちろん日本の原発のことです。
でもこの曲もそう言う問題そのものにフォーカスしているんではなくて、問題があって、理想の世界が遥か遠くに感じても、それが来るのをいつまでも待つ必要はない、踊ろうと思えば今すぐ踊れるという、俺たち自身の歌であって欲しいなと思いますね。テーマとしてはSpit it Outと同じかもしれません。踊ると言うのは自分自身を表現することです。特に日本のライブハウスなんかではダンスはなかなか見られないんですけれど、だからこそ特に象徴的に、他人からどう思われるかなんて関係なく、自分自身を表現するべきだと言う意味で歌っています。
今は忖度社会で、炎上社会で、まるでジョージ・オーウェルの世界みたいになってきましたね。だからこそアートや音楽は声を上げないと行けないと思うし、それを聞いた人たちも、アーティストやミュージシャンが自由に生きて自由に発言しているのを眺めていないで、思うように叫んだり歌ったり詩を読んだり絵を描いたりできたら素敵だなと思っています。ツイッターでもいいし、友人との飲み会ででもいいし、言いたいことはやっぱり言わないと自分が疲れちゃいますからね。全員が社会を変える必要もないし、全員が何かのリーダーになる必要もない。ただ、一人一人が思ったことをきちんと行って、疑問をきちんと口にして、あるいは共感できる、応援できると思える考え方をきちんと口に出して支持するって言うのは大切です。
そう言う意味では、僕はこないだの太田光さんがテレビで発言した自殺や無差別殺人の予備軍と呼ばれるような、社会に絶望した人たちへ投げかけた、あるいは彼自身へのつぶやきのような発言には胸を打たれたし、くりぃむしちゅーの上田さんが冠番組を務めていたサタデージャーナルの突然の終了の際に発言した、日本社会は忖度すべきではないという旨のスピーチにも感動しました。僕は彼の発言を支持したい。そしてYouTuberとして人気を博している、まさに忖度0の芸人せやろがいおじさんの動画シリーズは、心から支持しています。政治も社会も、日常のちょっとしたことも並列で扱っていて、とても自然でいいなと思います。こうしてみると芸人ばかりですね笑
音楽家もどんどん自由に発言できたらいいですね。逆に今の政権を心から支持しているならそれはそれで言ったらいいとも思っています。もちろん汚い言葉での罵り合いは何も産まないので求めていません。ただ、俺は今の政権を全く応援していないし官僚社会に疑問を感じているけれど、仮に友人が今の社会に満足して自民党を応援していたとしても、それはそれでその人の考え方なんだからいいんです。自分でそうだと思える意見を、誰にも脅かされず持つことができる、それが民主主義だと思う。もちろん暴力は論外ですけどね。実際の暴力も言葉の暴力も。
いろんな意見があって、自分がそれを理解できなくても、その人がそう考えているということは認め合って、ようやく対等に議論をしあえる。声の大きさだけで封じ合うような社会は俺は好きじゃない。それは右でも左でも同じことです。今の日本社会は変わるべきだと思う、そう思っている人は実際多いんじゃないんでしょうか。特に今の日本では賢い人ほど黙ってしまうのもわかるのですが、そこらへんは問題意識を持っている人ほど、したたかになれたらいいんじゃないかなと思います。この二曲は特に、そうした背景を確かに反映していると思います。
前作リリース後は、アジアツアー、アメリカの SXSW 出演やイギリス、フランスなどでもライブをしながらロンドンで活動していますが、日本での活動との違いはありますか?
嘉本 : 基本的には変わりませんが、居る環境や人の雰囲気によって様々な影響を受け、それぞれのアウトプットをしています。ここ最近はロンドンに長期滞在しているとはいえ、その間に他の国に行く機会も多いので、どの国にいるからどの様な活動をするというよりはまとめて1つの活動として考えています。
秋山 : 何を基準に考えるかで色々な答え方ができるように思いますが、実際に一年同じ場所に住んで活動するというのはアメリカですらやったことがなかったので、この一年のロンドンでの滞在は大きな経験でした。バンド内の話で言えば、同じ四人でスタジオに入って練習をしたり曲を作ったりという作業自体の話でいうと、土地ごとに何かが大きく変わる訳ではないかもしれません。でも実はそれぞれが新しい生活に合わせて新しい音楽を聴いていたり、街で過ごしながら吸っている匂いだったり、いる場所の雰囲気それぞれに感化されて変化していると思うので、四人共がそれぞれ変化していたら音楽的にはやはり大きく変化しますよね。
仮に大学卒業してからこれまでずっと海外に行かず日本で数年過ごしていた未来を想像すると、今とはまた全く違う視野で、全く違う音を鳴らしていたんじゃないかなと思います。もしもっていう世界は無いのかもしれませんが。こちらでの生活を経て生まれた変化は直接的にしろ間接的にしろだいぶあると思います。ただ活動の違いという意味で明らかなのは、バンドにとっては箱にノルマがないのはでかいですね。こちらでも定期的にローカルなショーをやりますが、ギャラが貰えないという日はあっても、逆に自分たちからノルマを取られるなんて聞いたことがありません。
ライブハウスの仕組みや地価、酒を飲む飲まないとか、機材がちゃんとしてるしてないとか色々な違いがあるのでしょうが、少なくともこちらでは演奏者に対してのリスペクトというのは土地柄根付いていて、箱がバンドに演奏させてあげてるみたいな押し付けがましい感じは全く受けないですね。箱も気軽にバンドに演奏してもらって、バンドも箱に感謝しつつ気軽に演奏していて、仮にその日よく酒が売れたりしたら若いバンドにもきちんとバックをくれたりもする。
実際そういう音楽を取り巻く状況は見ていてだいぶ違いますし、やはりこちらのラフで自由な感じは魅力ですね。あと地震や騒音問題を考慮したら土地柄仕方のないことかもしれませんが、ライブハウスが地下ではなく地上に多いのもロンドンのいいところです。建物や立地的な開放感が違うとこんなに気持ちが晴れるのかと不思議なほどです。テラスで酒飲んで、バンド始まったらふらっと中に入ってライブを見る。しかもチケット代もだいぶ安いですね。フリーのライブが街中にたくさんあるし、有料でもたいした値段ではなかったりするので気軽にライブを見まくれるのは最高です。活動という意味では基本は同じかもしれませんが、感じ方は結構違っているんじゃないかなと思います。色々な局面で、自由を感じることが多い気がします。
ーーツアー中に台湾のバンド Sunset Rollercoaster のライブを見て感銘を受けた (情報筋によると) とのことですが、彼らはどうでしたか?また、以前にも増してアジアのバンドが欧米に進出しています。DYGL から見て他のアジアのバンドはどう映っていますか?
下中 : アジアから出て活動するときの音楽以外の大変な面もわかりますので、アジアのバンドの名前をこちらで見つけるとやはり気になります。でも音楽が一番重要なところですから、そこは常にフラットです。それを踏まえてもSunset Rollercoasterは素晴らしいバンドだと思いますし、リスペクトしています。先日ロンドンでライブを拝見したときも、恵まれているとは言えない音響にかかわらず、分離よく気持ちのよい音が出ていましたのでやはりすごいバンドだなと再確認しました。曲もよく聴いていますし、ライブも何度か拝見しています。アジアのバンドの話になった時は必ず出てくるバンドです。
秋山 : Sunset Rollercoasterはライブめちゃめちゃ気持ちよかったですね。その日はThe Shacklewell Armsというパブでのカセットストアデイかなんかのイベントだったんですが、イギリスのAverage Sex、LAのWinter、そしてトリが彼らでした。WinterもLAに滞在している時にハウスパーティに呼んでもらって演奏させてもらった縁のあるバンドなので再会できて嬉しかったし、ライブも気持ちよかったのですが、Sunset Rollercoaster は普段ここで見ているどのライブとも違うクリアな音像で演奏していて結構驚きましたね。
PAも連れてきているというようなことを言っていたと思いますが、明らかに一次元違う良い音でした。ローカルなパブの音とは思えない感じで、大きなホールで演奏しているような音というか。お客さんもパンパンでしたね。Rough Trade EastではCHAIがフリーライブをしていたので見に行きましたが、こちらも大盛況でした。日本と同じかそれ以上に受け入れられているかもしれません。ああいう日本的な世界観を崩さずに、そのままこうしてイギリスでも受け入れられているっていうのは、あんまり聞いたことがないですね。すごく面白いです。
あとは最近だとMitskiやSasamiっていうアーティストだったり、アジア系の音楽はだいぶ注目されている感じがありますね。もっとアイドル的なものだったらあんまり聴いたことないですがBTSもそうかもしれない。もう少し音楽好きにしっかり響いているのは、坂本慎太郎さんとか、細野晴臣さんはすごいと思います。どちらもロンドン公演があったので見に行きましたが、現地の若い子とかが新たにファンになったりしていて、古いアーカイブや歌詞の意味までチェックしていて、本物はきちんと伝わるんだなと感動しました。最近現地の友人がSwim Deepというバンドに加入したのですが、彼は根っからの細野晴臣ファンでいつもその話をしていました。しかも歌詞まで褒めていましたね。細野さん、おそるべしです。
ーー今回の凱旋ツアーは日本の夏を駆け抜けるような日程で、フジロックにも出演します。何か楽しみにしていることはありますか?
下中 : ライブ後のお風呂です。
加地 : 前回は緊張やライブ後の疲れであまり満喫できなかったので、今回はシンプルにライブやフェスの空気をリラックスして楽しめたら嬉しいです。
秋山 : 見たいアーティストも結構いますが、とりあえず久しぶりの日本なので自分たちのライブをまずは楽しみたいですね。酒飲みながら、音楽聞けたら最高です。
DYGL インストア情報
7月18日 (木) タワーレコード渋谷店
OPEN 18:00~
ミニライブ & サイン会
参加券配布対象店舗: 渋谷店/ 新宿店/ 秋葉原店/ 池袋店/ 横浜ビブレ店
http://towershibuya.jp/2019/06/24/135314
7月19日 (金) タワーレコード梅田NU茶屋町店
OPEN 18:30~
ミニライブ & サイン会
参加券配布対象店舗: 梅田NU茶屋町店/ 梅田大阪マルビル店/ 難波店
https://tower.jp/store/event/2019/07/096023
7月25日 (木) 代官山 蔦屋書店
OPEN 18:30~
アコースティックライブ & サイン会
お申し込み: 代官山 蔦屋書店 店頭/ お電話 03-3770-2525
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/music/7624-1429320621.html
DYGL JAPAN TOUR
7月21日(日) 岡山 PEPPERLAND
7月23日(火) 鳥取 AZTiC laughs
7月27日(土) FUJI ROCK FESTIVAL’19
8月1日(木) 愛媛 Double-u studio
8月3日(土) 高知 ri:ver
8月4日(日) 香川 TOONICE
8月8日(木) 福島 CLUB#9
8月9日(金) 岩手 the five morioka
8月12日(月) 宮城 LIVE HOUSE enn 2nd
8月13日(火) 青森 Quarter
8月20日(火) 石川 GOLD CREEK
8月22日(木) 新潟 CLUB RIVERST
8月23日(金) 長野 LIVE HOUSE J
8月28日(水) 奈良 NEVERLAND
8月29日(木) 京都 磔磔(takutaku)
8月31日(土) 広島 CAVE-BE
9月1日(日) 兵庫 VARIT.
9月8日(日) 沖縄 Output
10月3日(木) 福岡 BEAT STATION
10月5日(土) 熊本 NAVARO
10月6日(日) 長崎 ASTORO HALL
10月11日(金) 北海道 Sound Lab mole
10月15日(火) 愛知 CLUB QUATTRO
10月17日(木) 大阪 BIGCAT
10月19日(土) 東京 EX THEATER ROPPONGI
チケット発売
¥3,500(税込/ドリンク代別/整理番号付)
インタビュー : Lisa Tominaga, libers