世界屈指のオルガン奏者 James McVinnie、怪作『All Night Chroma』を限定リリース!
今年30周年を迎えた〈Warp〉より Squarepusher (スクエアプッシャー) ことトム・ジェンキンソンが作曲し、世界屈指のオルガン奏者 James McVinnie (ジェイムズ・マクヴィニー) が奏でる怪作『All Night Chroma』が 9/27 リリース決定!CD/LPともに世界限定1000枚、ナンバリング付でレア化必至。
収録曲「Voix Célestes」のMV公開!
オルガンのための曲を書くことは、多くの面で、電子楽器の曲を書くことと類似しているのではないかと感じる。コンピューターの天才が持つ謎めいた魅力に通ずる何かが、オルガン奏者にはあるのかもしれない。彼らは装置に囲まれながら、賞賛の声から距離を置き、まるで執着がないかのように振る舞っているのだから。
ジェイムズとの共同制作は、非常に心躍る経験であり、その要因は、彼の音楽家としての圧倒的な才能のみならず、多くのアイデアを取り入れる感受性と実験的試みを厭わない精神にある。
(トム・ジェンキンソン)
世界でも有数のオルガン奏者として知られているジェイムズ・マクヴィニー。16世紀のルネサンス音楽から現代音楽までを網羅するマクヴィニーは、これまでにも多くの現代音楽家たちとコラボレートをしており、フィリップ・グラス、アンジェリーク・キジョー、ニコ・ミューリー、マーティン・クリード、ブライス・デスナー、デヴィッド・ラングらが彼のために楽曲を書き上げてきた。
演奏だけでなく、万華鏡のように色彩豊かなロイヤル・フェスティバル・ホールの音色にフィットさせることなど、実現に至るまで技術的な挑戦となるものだったんだ。この楽器はミッドセンチュリーデザインの頂点であり、最初にその音を聴かれた時には音楽界にセンセーションを巻き起こした。豊かで高貴な歴史を持つにもかかわらず、明瞭さと新鮮さを兼ね備え、今回の新しい音楽の理想的な媒体だったんだ。
(ジェイムズ・マクヴィニー)
スクエアプッシャーやショバリーダー・ワンとしての活動で知られるトム・ジェンキンソンは、今回マクヴィニーのために8つの楽曲を書き下ろしている。収録された音源は、2016年に、ロンドンのロイヤル・フェスティバルホールに設置され、このホールの特徴にもなっている巨大なHarrison & Harrison社製1954年型のパイプオルガンで演奏・レコーディングされたものとなっている。ジェンキンソンは、スクエアプッシャー、ショバリーダー・ワン名義の作品群や革新的なライブ・パフォーマンスのみならず、作曲者としての地位も確立しており、2012年のスクエアプッシャー作品『Ufabulum』をオーケストラ用に再構築し、世界的指揮者のチャールズ・ヘイゼルウッドとシティ・オブ・ロンドン・シンフォニアによるコンサートを成功させ、BBCによる映像作品『Daydreams』で1時間半に及ぶ楽曲を提供、”Squarepusher x Z-Machines”名義で発表された『Music for Robots』では、3体のロボットが演奏するための楽曲を制作している。本作『All Night Chroma』では、スクエアプッシャー作品の礎となっているエレクトロニック・サウンドから離れ、彼のさらなる才能の幅広さを見せつけている。
『All Night Chroma』のストリーミングが開始!
■リリース情報
label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: James McVinnie
title: All Night Chroma
release date: 2019.09.27 FRI ON SALE
国内仕様盤CD BRWP305 ¥2,214+tax
解説書封入
All Night Chroma recital with James Mcvinnie, 9/23, St Andrew in Holborn
リリースに合わせ、先日ロンドンで行われたジェイムズ・マクヴィニーによる本作のスペシャルコンサートのレポートが公開!
あいにくの小雨に見舞われたロンドンの秋の夕べ、トム・ジェンキンソンことスクエアプッシャーと世界有数のオルガン奏者ジェイムズ・マクヴィニーとの異色コラボレーションを収めた話題作『All Night Chroma』発売を目前に控え、聖アンドリュー教会でミニ・リサイタルがおこなわれた。招待客のみのインティメイトな場は、ある意味ギャラリーでの個展初日/プレヴューを思わせるものだった。
その印象を増したのは、通常のライヴ会場やコンサート・ホールとは異なるシチュエーションもあっただろう。入場時に、「入り口と向かい合わせのベンチに座るのをお薦めします」と告げられる。多くの場合、教会オルガンは十字架が設置された祭壇=前方に背を向けているため会衆には見えない。礼拝ではなく演奏を聴くのが主眼である今夜の観客のために、教会側はベンチの向きを変えて対応していた。移動できない巨大楽器であるパイプ・オルガンは、それが据えられ、その空間の音響に合わせて調整された場所(教会、ホールetc)まで行かないと体験できない、一種のサウンド・インスタレーションに近い。
まずジェイムズ・マクヴィニーが登場し、2部構成である『All Night Chroma』の第1部の4作と第2部の1作、およびその間にオリヴィエ・メシアンのピースもひとつ披露すると説明。2016年の一夜にロイヤル・フェスティヴァル・ホールで録音されたアルバム『All Night Chroma』では同ホールに1954年に設置された巨大オルガン(パイプの数は8千本近い)の古風な味が楽しめるが、今夜使うオルガンは1989年製なのでバロックな音です、とのことだ。
とはいえ『All Night Chroma』コンポジションは、オルガンと言えば頭に浮かぶバッハやヘンデルとはまったく異なる。木管楽器めいたくぐもったドローンの波に乗り、霧笛の太い振動、サステインされたフルート調の高音等、様々な音が緊張感をもたらし、唐突に現れる軽やかなグリッサンド、不協和音、スタティック・ノイズ、ジャズ的なクレッシェンドを奏でていく。「1台のオーケストラ」とも言われるパイプ・オルガンはかつて劇場や映画館で伴奏だけではなく特殊効果音も担当したそうだが、スクエアプッシャーはオルガンを電子楽器以前の「音楽器械」と看做し、その幅広いポテンシャルを非クラシック人ゆえの柔軟さで引き出そうとしているようだ。
数段の鍵盤と無数のボタンが並び、演奏には細かいペダル操作に助手も必要なオルガンは、荘厳であると同時に70年代のシンセサイザーのように融通の利かなそうなメカニズムと映る。ゆえに「UFO’s over Leytonstone」のイントロ部や「Mutilation Colony」を彷彿させる、セット前半の比較的アンビエントで動きの少ないムーディなピースはテクニカルな制約ゆえ?とも思った――スクエアプッシャーと言えば高速で強烈なブレイクダウンやビジーさが看板になってもいるし、さすがにそのミリ単位の変化には対応できないのか、と。だが、最後に登場した曲ではトーンそのものが変化し、複雑で目まぐるしい運指と共に音量も増幅、磁力で次々に吸い寄せられ接合する鉄球のような粘っこいサウンドが重たい轟音となっていびつな和音を響かせ、そのダイナミズムと体感度はさながら洪水だった。ジェイムズ・マクヴィニー本人も英ラジオ取材で『All Night Chroma』第2部は技術的に非常に難しいピースだと語っていたが、なるほど、あれだけのムーヴメントと隆起をたったひとりでこなすのは並大抵のことではないだろう。
演奏後、拍手を浴びるジェイムズに招かれこざっぱりとヒゲも剃ってスーツ姿のトムも観客の前に現れ、深々とお辞儀。このジェイムズとのコラボレーション――起源は2016年春におこなわれた、「The Secret Life of Organs」と題されたザ・ネックスとの限定ツアー向けのオルガン曲制作に遡る――がいかに啓発される、喜ばしい経験だったかを、そして創作/作曲における彼の常套手段であるソロの殻を破ってくれたかを語った。今後もこうした外部とのオーガニックな共作に挑戦することで、スクエアプッシャーの幅は更に広がるはずだ。
にしても、2016年と言えば『Damogen Furies』、そしてガチンコ生演奏集団ショバリーダー・ワンの活動に挟まれた時期なわけで、そのスキゾとすら言える活動ぶりと速度には改めて驚かされる。11月にはワープDJ軍団(笑)のひとりとして来日することになっているが、その頃にはもう、トムはまた何かとんでもないプロジェクトを進めていることだろう。止むことなく変化し続ける連続体から届いた、過去と未来を結ぶスリリングな実験報告『All Night Chroma』。そこに広がる未知の世界に飛び込んでみて欲しい。
Text by 坂本麻里子
BEAT RECORDS / WARP RECORDS (2019-09-27)