ICEAGE、パンク/ロックの初期衝動が詰まった完全無欠のパフォーマンス、東京公演レポート公開!
photo by Takayuki Okada
カリスマ的フロントマン、エリアス・ベンダー・ロネンフェルト率いるデンマーク発のポストパンク/ハードコア・バンド ICEAGE (アイスエイジ) パンク、ロックの初期衝動が詰まった完全無欠のパフォーマンス、東京公演最速レポート公開!
“この日のアイスエイジを目撃したオーディエンスは確信したはずだ。『Beyondless』はバンド史上最高傑作なのだと。”
その日、東京の天気は不安定だった。横風が吹き荒れ、夕方から雨が強く降ったりやんだりを繰り返していた。その不穏な天気は、アイスエイジのライヴにはうってつけだったかもしれない。湿った空気に包まれた渋谷duo MUSIC EXCHANGE。20時45分頃、トータル・コントロールのダニエル・スチュワートがふらふらとステージに表れると、アブストラクトなポエトリー・リーディングを始めた。大半は即興なのだろうか、「アイスエイジの新しいレコード『Beyondless』」という言葉も時折飛び出す。ダニエルのパフォーマンスが40分強続き、オーディエンスの渇望感も高まりきったとき、アイスエイジのメンバーがばらばらと、何の前触れもなくステージに表れた。驚くべきことに、ヴァイオリン奏者とサックス奏者を加えた6人編成である。バンドはドローンのような演奏を始めた。
程なくヴォーカルのエリアス・ベンダー・ロネンフェルトが圧倒的なカリスマのオーラをまとって登場。もちろん、感嘆の声があがる。まずは新作『Beyondless』のオープニング、“Hurrah”だ。開始直後、突然エリアスは花があしらわれたマイクスタンドごとステージ上に倒れ伏した。オーディエンスが騒然となる中、エリアスはやにわに立ち上がり歌い始める。ローリング・ストーンズ・タイプのパワフルなロックンロール・ナンバーに観客も飲み込まれる。間髪入れず “Pain Killer”へ。レコードではスカイ・フェレイラとのデュエットとなっている曲だ。歓声があがる。サックスとヴァイオリンが印象的なメロディーをユニゾンする中、エリアスは缶ビールを飲んだり、観客席に身を乗り出して歌ったり、あるいは花をクラウドに投げたりと、一時たりとも目が離せない。誰もが彼のパフォーマンスに釘付けになっていた。
『Beyondless』の冒頭4曲を演奏し終えると、ファンは聴き馴染んでいるだろうあの曲が始まった。セカンド・アルバム『You’re Nothing』の1曲目、激しいハードコア・ソング“Ecstasy”だ。それまでは大人しくパフォーマンスを観ていたキッズたちが、一挙に前方に押し寄せる。強烈なビートに合わせ、身体を強くぶつけ合わせる。モッシュが始まった。曲調が最も激しくなる中間部ではクラウド・サーフも見られた。アイスエイジ主催の「オープニング・ナイツ」は序盤から最高のムードに満たされていた。
サード・アルバムの『Plowing into the Field of Love』から“The Lord’s Favorite”、続いて『Beyondless』から“Thieves Like Us”と、アメリカーナを独自解釈したパンク・ソングが続く。前者はファンにとってすでにアンセムだ。シンガロングの声も聴かれ、性急なツービートに合わせて再び激しいモッシュが起きた。ヘヴィな“Morals”を経て、サイケデリックに上昇していくマーチング・ドラムが特徴的な“Take It All”。エリアスは狂おしく歌い上げ、サックスとヴァイオリンがエリアスの歌に艶めかしく絡みつく。新曲群はバンドの表現もエリアスの歌も新しいモードに突入していることがはっきりと提示された。
ダークなハードコア・パンク“White Rune”は、ファースト・アルバム『New Brigade』から。最新モードの楽曲が続く中、バンドの原点のような楽曲が演奏されたことでオーディエンスはまた興奮のるつぼと化し、再び激しいモッシュ。どれほど音楽的な進化を遂げようとも、アイスエイジは新曲も過去の楽曲も同じステージで、同じテンションで演奏する。変化と一貫性を同時に持つあり様こそ、アイスエイジが稀有なバンドである証明だろう。
その次の“Broken Bones”もファーストからだが、アレンジはダークなポストパンク調のオリジナルからまったく異なっていた。セクシーにうねるサイケデリック・ジャムと化した“Broken Bones”では、ヴァイオリンとサックスのデカダンな響きが刹那的で破滅的なムードを醸し出す。続くサード・アルバムの“Plowing into the Field of Love”も同様。演奏が終わると何人かが「セクシーだよ、エリアス!」と歓声をあげたが、エリアスはただ「シー……」とつぶやくだけ。
ラストは『Beyondless』から、リード・シングルの“Catch It”。ダウンテンポな導入部から一転、激しくアッパーになる中間部でエリアスはステージからオーディエンスの頭上にダイヴ。そのカリスマに少しでも手を触れようと、キッズたちはすかさずエリアスに手を伸ばす。客席前方は混沌とし、バンドの演奏とクラウドのテンションは最高潮に達した。混乱と興奮のなか、アイスエイジのショーは1時間程度で終わった。終演後、「ヤバい……」「エリアス……」という声がそこここで聞かれた。この日のアイスエイジを目撃したオーディエンスは確信したはずだ。『Beyondless』はバンド史上最高傑作なのだと。 – text by Ryutaro Amano
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