未だ多くのベールに包まれる京都発のドローン・サイケデリア・ユニット Supersize me。デビュー作から2年振りとなるニューアルバム『Slouching Towards Bethlehem』を8月にリリースした。本作は、ネオプラトニズムないしペレニアリズムに根ざした神学的思索が詩や音風景に深く沁み入ったもの。 目を瞑り耳を傾けると、光彩の靄(もや)に包まれ恍惚の高みへ墜ちてゆく ... 。幾重にも重なる倍音の渦が聴く者を母胎のヴィジョンへと誘う原初のサイケデリア。
Supersize me - Slouching Towards Bethlehem (Album Teaser)
Supersize me インタビュー
まず初めに Supersize me を最初に知ったきっかけはUKの名門インディーレーベル FatCat Records のデモ企画で紹介されていたのを聴いた時でした。楽曲「Mother」とともに "dreamy psychedelia and drone" と紹介されていました。そのサウンドから、また面白いバンドが出てきた!と、ひしひと感じたのを覚えています。
その後の1stアルバムの発売や Virgin Babylon Records でのリリースを経て、2ndアルバムを indienative より発表することとなりました。それに合わせまして、本作の制作背景やユニットの現状について、インタビューを行いました。
Q. 初めに Supersize me を知った当時、メンバーは確か4人だったような認識があるのですが現在のメンバー構成を教えてください。
結成当初よりのソングライターとエンジニアが核となり、作曲、音源制作を進めております。ライブに於いてはメンバーを固定することはなく、様々な音楽家と新たな表現を模索しております。
Q. FatCat Demo の時に聞いたサウンドから、更にオリジナルのサウンドへと昇華されていると感じました。現在のサウンドに至るまでの経緯というかストーリーはありますか?
このユニットを始めた際には「風景」、すなわち眼前の風景や風景画、映像作品等にインスパイアされた心象風景を「意識の流れ」に沿って動的に表現することを志していました。音に関しては、倍音を孕んだギターやオルガンのアンビエンスで風景を塗り描いていくことに挑戦いたしました。詞については、原風景から浮かび上がる物事を描写することを試みました。1stアルバム収録の「Mother」がその志向を象徴している楽曲です。
Supersize me - Mother
本作では特定のモチーフや象徴を静的な切り口で描くことに注力するようになりました。その結果音や詞の表現の幅も広がりました。それらの題材は前作の風景画から具象画や宗教画になり、それらに加えまして既存の文学作品や宗教的思索からインスピレーションを受けたものになっています。例えば、"Evelyn, Evelyn"は音に関しては和音を重視する、声の倍音を用いる、ドローンギターからギターのストロークの持つ倍音性を重視しております。また、詞の部分では アビラのテレジア(『自叙伝』)が表現したような神秘体験における段階論をモチーフにしております。
Q. サウンドは宗教的なものからインスパイアされているのでしょうか?また、そういった背景があるのでしょうか?
音楽という芸術の特徴を考えるうちに、宗教的な営みと音楽の共通性に着目しました。 時間芸術としての音楽はその演奏される過程で、聴く者や演奏する者が忘我のうちに、自身の意識が自分の意図とは離れて、何かに突き動かされているようになる場合があります。宗教的な営みにおいても同様の現象が多々あると知ったのが一つのきっかけになりました。
また、宗教的な営みにおいては音が鳴らされる場所が重要な意味を持ちます。心的なあるいは物理的な場は、何かに「包まれる」ような感覚をもたらすための場として機能することがあります。例えば、教会や伽藍がそれに当たります。そのような「場」の感覚を音楽においても追求しようと思い、現在の作風につながりました。
Q. サウンドを作るにあたり、音楽以外に何か影響を受けた "モノ" や "人" について教えて下さい。
様々な芸術作品から霊感を受け、制作の糧としています。 特に、象徴主義の趣を持つ芸術作品に惹かれ、影響を受けることが多いです。 今回のアルバムは、タイトルからも窺えるように、William Butler Yeats の作品群に強く感化され制作されたものです。
Q. 日本おいて (音楽において地域を区切るのも変な話ですが)、Supersize me のようにオリジナリティーの高いバンドは、そうなかなかいないと思うのですが、(実際にリスナーから同時代性に媚びない、強靭なバンドとも評価されていますが) 影響を受けた日本のバンドはいますか?海外のバンドではどうでしょうか?
日本では hakobune などのアンビエント作家やサイケフォークのアーティスト等に、海外では The Velvet Underground、William Basinski らから強い影響を受けております。
特に The Velvet Underground に関しましては、彼らの3rdアルバムの音像に何を足すべきかという思案から、私どもの録音活動が始まりました。 リスナーとして既存の作品に沈み込む際に生まれる心象風景を、如何に自分たちの音像に転化していくかということに重きを置いております。
私たちのサウンドを生み出すにあたって、これらの作家以外に影響を受けた作品を以下に列挙いたします。
Ian William Craig "Cradle For The Wanting"
Philip Glass "Music With Changing Parts"
Graham Lambkin & Jason Lescalleet "Air Supply"
Księżyc "Księżyc"
Natural Snow Buildings "Waves Of The Random Sea"
The Electric Prunes "Underground"
Current 93 "All The Pretty Little Horses"
Eluvium "Talk Amongst the Trees"
Alice Coltrane “Universal Consciousness”
Q. 今作のアルバムのコンセプト、制作背景について教えてください。アートワークのデザインについてなど
今作は先ほど文学作品などのモチーフに基づいて製作したと申し上げました。そのモチーフというのは、神秘主義に関する思想、すなわち意識の昇っていく過程を述べた段階論やルネ・ゲノンらの伝統主義があります。行き着く先というのは「恍惚」や「合一」といった言葉で諸宗教の伝統で語られるような状態です。
今作は意識の行きつく先、帰るべき場所への道筋を歩んでいく過程を描いたコンセプチュアルなものとなっております。最後の辿り着く場所はあえて空白にした(すなわち"Theoria"にて本作を締めくくった)のは、行き着く場所というのは個々の心象風景に宿ると考えたからです。アートワークは象徴主義の傾向を持つ宗教画を中心に用い、様々な意識の階層を示したものとなっております。
Q. 新作以降ライブの体制が変わった (メンバーが2人に?EMERALD FOUR の方が参加) と聞きしましたが、どんな変化があったのでしょうか?
原風景にアクセスできるような、包み込むような演奏を目指しております。現段階では四人編成になり、これまでの音で空間を塗りつぶすような演奏から、ギターとベースでシーケンスに色を付けていくような編成にしております。そのために今後も試行錯誤を続け、より幽幻な音風景を描いていきたいと考えております。
以下が現体制でのライブ映像になります。こちらもぜひご覧ください。
Supersize me - Live @ Chika-Ikkai 30th August 2016
Q. 今回CDリリースと同タイミングで、アルバムのカセット盤もリリースされましたがどのような経緯でリリースされたのでしょうか?
Supersize me の活動以前から、カセットの持つ音色の暖かさに惹かれておりました。そのくすんだ質感は、同じ作品を聴く場合でもデジタルやCDとは大変異なる色合いを帯びております。私たちの作品も例外ではなく、その音風景に新たな色彩を与えてくれました。このようなこだわりから、前作同様この度もカセットにてリリースいたしました。
今日はこれ
— middlecowcreekfalls (@NaohiroAsakura) 2016年9月21日
京都のsupersize me -Slouching Towards Bethlehem-
最高なreverbですべてを飲み込むサウンド。前作よりディープに、より夢の中に吸い込まれる様な感覚におちいります。 pic.twitter.com/6hyezlaQ1w
Q. アルバムを手に入れたリスナーから、”最高の睡眠剤”、”夏が溶けるような音楽” というような反応がありました。周りの反応や、ライブでの手応えはありましたか?
早くも多くの方にお聴きいただき、様々な感想をお聞かせいただいております。音楽を聴いているにも関わらず、まるでなにかしらの風景を観て来たかのような感想をお聞かせいただけることもあり、大変光栄に感じております。新編成にてアルバムに収録された新曲を演奏することが多くなりました。演奏に色彩が増したように感じております。
Supersize me
— out-1 (@out1film) 2016年8月22日
PVは抽象的な映像であったり、サイケなイラストの連続だったり。 ライブ映像も、色を抜いたり、解像度を下げたり、シャープネスを下げたり、あえて輪郭をぼかす。 同時代性に媚びない、強靭なバンドだなあ。
supersize me というバンド。本当に夏が溶けるような音楽だ。メモメモ。
— antiPOP (@69Melt) 2016年8月20日
Supersize MeのSlouching Towards Bethlehemを聴いている。とろけまくりな音がモヤモヤに包まれて遠くで鳴ってるような、自分の存在の強度がユルユルになるような危険な音。精神の夏休みを味わいたい人向け。
— 中島 (@NakazimaMara) 2016年8月20日
京都のサイケユニット、supersize meの新譜をポチった。これを聴けば通勤電車でよく眠れそう。届くのが楽しみだ。
— ますぱみゅさん (@morebeer0824) 2016年9月4日
Q. 今後のライブ予定など、お知らせがありましたら教えてください
直近では、10/27(木)に京都の木屋町 UrBANGUILD にてライブ予定がございます。マジカルパワーマコ様他ユニークなアーティストと共演させていただきます。ぜひともお越しください。
また今冬に京都にて自主イベントをについて企画を進めております。また追って告知いたしますので、こちらも確認いただけると幸いです。
”心象風景” を音で表現する
Supersize me の核となるコンセプトでもある、「”心象風景” を音で表現すること」に関して本作は実に成功しており、このアルバムを聴いた人が 自分の心の中にある様々な風景を描き出す。世の中に数多く流通している音楽とは、また一味も二味も違ったアプローチで、現代アートのインスタレーションのような表情を魅せる。もし学生であれば、お昼の校内放送として流したかった。存在や精神さえもとろけるような至極の時間をプレゼントできたことだろう ...
最後に初めてこのアルバムを聴いた時、私は日曜日の午後、家の中でコーヒーを飲みながら、窓から入る日差しに包まれるような恍惚とした風景を思い描いた、とても懐かしい記憶と共に。